2021年7月に来日以来、世田谷区を中心に講演会や視察など精力的に活動されたDawn Uchiyama氏。帰国を数日後に控えた2022年2月21日、世田谷みどり33協働会議事務局長の大坪義明氏のご尽力により、単独インタビューが実現した。2時間ほどのインタビューの間、終始笑顔を絶やすことなくお話しいただいた内容はどれも興味深いものであり、日本で環境保護に携わる人たち、そして造園・ランドスケープ業界へ向けた熱いメッセージとして私たちは受け止めた。
【聞き手】
大坪義明氏 世田谷みどり33協働会議 事務局長世田谷ポートランド都市文化交流会 運営委員
丸茂 喬 株式会社マルモ出版 代表取締役
【通訳】
矢吹麻理奈氏お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科 発達臨床心理学コース博士後期課程
文・ポートレート=小林哲也(LANDSCAPE DESIGN 編集長)
アートからランドスケープの道へ
丸茂喬(以下、丸茂) 本日はありがとうございます。本日のインタビューは大坪様と私が聞き手としていくつかご質問をさせていただき、それにお答えしていただく形で進めさせていただきます。
さっそくですが、Dawnさんがランドスケープアーキテクトの道に進むきっかけになったことを教えてください。
Dawn Uchiyama氏(以下、Dawn。敬称略) 私はイリノイ大学シカゴ校でアートとデザインを学び、コミュニケーションデザインの学士号を取得しました。そこではたくさんの著名なアーティストやバウハウスなどについて学ぶ機会もあり、グラフィックデザインやファインアートを学ぶにはとても良い環境でした。一方で私の両親は離婚していたのですが、母は都会に父は地方に住んでいたため、その両方での暮らしを経験することができたことは、私の人生に良い影響を与えてくれました。地方に住む父は100年以上続く農場で暮らしていて、広大なトウモロコシ畑の景観が印象に残っています。トウモロコシや大豆を育てていた農地は平坦で広大であり、その場に立つとまさに地球に立っている感覚が得られる場所でした。また家の近くにはきれいな川が流れていて公園もあり、豊かな自然が身近にある環境でした。
近くには彫刻家Lorado TaftがネイティブアメリカンへのオマージュとしてつくったBLACKHAWK STATUEという巨大
な彫刻があり、それは本当に大きくて、周辺の森と川を見渡すように建っていました。一方、その彫刻からそれほど遠くはない場所に原子力発電所があり、川沿いの巨大な冷却塔は川の冷たい水を利用し温まった水を川に放流していたため、自然に与える影響を心配しましたし、そのことに疑問を持っていました。その体験は自分が学んだことを活かして環境保護のために使いたいと考えるようになったきっかけになっています。
丸茂 私はランドスケープアーキテクトや造園家にその人の原風景についての質問を度々します。その人が育った環境や見てきた風景は潜在的に記憶されていて、それが作品に反映されることが多いと感じているからです。Dawnさんの原風景にある自然の豊かな風景とそこにあった原子力発電所の存在が現在の仕事に繋がっているのですね。
Dawn そうですね。若い時から自然に与える悪い影響を見てきたので、環境保護に関わる仕事に就きたいと思いましたし、大学でアート、デザインを学んでいた時に感じたパッションそのままに生きていきたいと強く感じていました。 余談になりますが、私はイリノイ大学シカゴ校を卒業後ランドスケープアーキテクチャーの修士号を取得するため、シカゴから2時間ほど南にある同大学のアーバナ校で学んでいた時に、同じく勉強をしていた主人(*1)と出会いました。その出会いはちょっとしたドラマのようで、その時主人と私は背中合わせに座ってデザイン画を描いていました。教授の指示があったと思うのですが、振り返ってお互いのデザインを見比べてみると、主人のデザイン画はとても構造的で綺麗なしっかりとした線で描かれたもので、一方私のデザイン画といえば色彩豊かで絵画のようなものでした。
これほど自分と対照的なデザイン画を描く人はどんな人だろうとお互いが思い、その時初めてお互いの顔を見たのです。つまり主人と私の出会いは顔を見る前に表現方法があまりにも違うお互いのデザイン画に惹かれたことが始まりで、対照的な人が惹かれ合う典型的な出会いでした。
丸茂 素敵なお話ですね。日本とアメリカの美に対する感覚も異なると思いますが、Dawnさんとご主人が出会いコラボレーションしてきたことはとても大きな意義があったと思います。Dawnさんは現在ポートランドで環境局次長として仕事をされていますが、具体的にはどのような仕事なのでしょうか。
ポートランドでの仕事
Dawn 始めはランドスケープアーキテクトとして主に川の流域に関する仕事をしていました。その当時ポートランドは環境保全においてすでに先端の街でしたし、そのような地でランドスケープアーキテクトとして働くことはとてもエキサイティングであり、減少していたサケが流域を整備することで必ず戻ってくると信じて取り組んでいました。
始めはランドスケープアーキテクトとしてデザインの知識を活かして仕事をしていましたが、プロジェクトマネジャーとしてプロジェクトに携わる機会が多くなったことで、仲間と協働するためのスキルを身につけなければいけないことに気付かされました。プロジェクトに関わる立場の異なるたくさんの人たち、例えばエンジニアやサイエンティスト、政治家などがそれぞれの立場で議論するため葛藤も多く、それをいかにしてまとめていくかを学ぶ必要があったのです。地域住民が必ずしも合意しないようなプラン、それは流域の復元や雨水管理に関するプロジェクトで、多くのステイクホルダーが様々な視点を持って参加するため深刻な葛藤がありました。そうした議論の場において私は中立的な立場で協働できる人として認識されるようになりました。そして4 ~ 5年前に現在の役職に就きましたが、それは環境局において2番目のポジションであり女性としては初めてのことです。
エグゼクティブ・リーダーシップは決断をするリーダーシップ、組織の方向性、未来に向けてどの方向に向かって進んでいくかを決める役割でありその一員になったということです。
エグゼクティブ・リーダーとなり10年計画を立てる仕事に携わりました。それは660名いる組織のすべての人たちに関わるものであり、27ある局と協働して10年計画を立てる仕事です。その際に上司がこの仕事を私に任せた理由を話してくれました。それは「仕事において最も重要なことは、人と人が信頼し合うことだということを君はきちんと理解しているからだ」と。この言葉はずっと大事にしている言葉です。
この10年計画を立てた後に、組織全体の再構築をしましたが、こうした場合にすぐにやらなければいけないことは、新しく重要なポストについた人たちに計画、戦略に沿った仕事をしてもらうことです。それはとても難しいことです。現在取り組んでいることのひとつに人種差別問題、それも社会システムに構造的に組み込まれてしまっている人種差別にどのようにアプローチするかということがあり、それを今まで取り組んできた事業計画と環境保全の業務に取り込みながら進めなければならないのです。
丸茂 それは社会構造にまで踏み込み本質的に問題を解決することが求められる仕事だと思います。日本ではそこまで踏み込むことは少なく、特にひとつのプロジェクトで発注者と受注者が明確に別れてしまっています。とりわけ行政発注のプロジェクトにおいては行政サイドに専門家がいないケースが多く、プロジェクトそのものの真の目的が伝わりにくいのではないかということを危惧しています。加えて行政の場合は、計画の途中で担当者が変わってしまうこともあり、長期計画であればそのことによってそれまでの流れが一度止まってしまうという場合があります。また分離発注により設計と施工、監理が一貫しておらず発注者と受注者、そして市民の間でコミュニケーションが取られないままに進行していることもあります。ポートランドでは長期プロジェクトにおいてどのように取り組んでいるのでしょうか。
ポートランドの公共事業のルール
Dawn 私は行政府に雇用されている立場ですので、日本では行政で働いている人たちに是非会いたいと思っていました。私は、行政のあり方としての構造を再構築してより良いものにすることが必要だと考えているからです。そのために行政の人たちに目を覚ましてほしいと思っています。ですから日本の行政について知ること、うまくいっている面とそうではない面を学ぶことでポートランドの行政において必要な再構築や改革のヒントになるはずだと考えました。
日本と大きく異なることとして、米国では人材の流動性が高いということが挙げられると思います。公務員を辞めて民間企業で働く人や、その逆のケースも多く、専門家が両方にアプローチできています。ポートランドは東京とは比べものにならないくらい小さな街です。行政権限上、ほぼ対等な関係にあるとはいえ、ポートランドと東京を比べると、規模はあまりにも差がありますが、実際に現在環境サービス局で取り組もうとしている流域の整備は小さな計画です。また他局と協働で公共の電車やバスの路線をつくったり、公園をつくったりもしますが、いずれにしましても東京に比べると規模は小さいものだと思います。ですがだからこそ、計画とデザインについては一貫して行うことができていますし、そうすることで生まれる資産が市民の利益につながることを働きながら実感しています。実はこれまで失敗した経験として、デザインを他に任せたところあまりよろしくないデザインであったために、市民が何年もそのよろしくないデザインと共に生活しなくてはいけなくなってしまったことがあります。こうした経験からデザインに対しても自分たちが主導することにしています。
丸茂 規模の話をしますと日本は地域のまちづくりの考え方として、小さな単位で再建しなくてはいけないところに来ていると私は考えています。と言いますのも、地域の行政は地域独自の考えが通りにくい事が多く、そのことで市民との摩擦も生んでいるケースがあります。市民が必ずしも納得していない場合でも、行政サイドのプロジェクトで事業が水面下で進められ、公開された時にはもう見直すことができないことも多くあります。ポートランドではプロジェクトが決まった時、どの時点で市民に公開するのでしょうか。
Dawn ポートランドでは、行政がやろうとしていることやプラン、また決定事項などは常に可視化されています。しかもつくる過程においても市民が関与できます。大きなプロジェクトを行う際のルールがあり、あらかじめ市民に公表することや会議には誰でも参加できる機会を設けることが定められています。このルールに従っていないと市民から指摘を受けます。こうしたルールは行政サイドとしてはかなり手間がかかることであり、スピード感もなくなりますが市民からインプットできることも多いのでより良いものができ、最終的には行政も大きな利益が得られます。行政が何かをやろうとした時、それは決して水面下で行われないことは市民の共通認識であり、様々な人からのレビューを受け取り実行されることを知っていて、それは事業に組み込まれています。一方で、市民の合意が得られず実現できなかった事業が多くあるのも事実です。
丸茂 それは理想的なシステムですね。世田谷でもグリーンインフラ学校が開催され、Dawnさんも講師として参加されましたが、ここでは行政と専門家、学校、市民がひとつのプロジェクトチームをつくりました。 60名の参加応募者があり、今回は抽選で20名が選ばれプロジェクトを進めて行きましたが、Dawnさんはどのように感じましたか。
Dawn ポートランドでもレインガーデンをつくるワークショップが開催されましたが、世田谷のグリーンインフラ学校のアイデアはポートランドに持ち帰りたいと思います。多くの希望者が参加できなかったことは残念に思いますが、最初のステップとして小さく始めることは理解できますし、選ばれた20名の方々のエネルギーが感じられました。世田谷区や世田谷トラストまちづくりのプロジェクトに対する責任感と、必ず良いプロジェクトにするという志の高さが最も感銘を受けた点で、その姿勢も含めてポートランドに持ち帰りたいと思ったのです。
ポートランドの社会問題と気候非常事態宣言
大坪義明氏(以下、大坪。敬称略) Dawnさんとは昨年の7月の来日以来、コンスタントにお会いする機会がありました。最初は来日直後に世田谷ポートランド都市文化交流協会が主催した、「気候変動と私たちの生活」というシンポジウムの場でした(2021年7月10日 於東京都市大学・二子玉川夢キャンパス)。基調講演で、Dawnさんは、2020年から顕著になってきたポートランドの状況の変化を挙げられ、それが来日を決める引き金になったとも明かされましたね。ひとつは山火事や熱波などの気候変動による深刻な環境問題で、もうひとつは、さきほども触れられたブラック・ライブズ・マターに象徴される人種差別や貧困と分断の社会問題の深刻化・顕在化だということでした。
気候変動については、一昨年、ポートランドが気候非常事態を宣言したのに続き、ほどなく世田谷区も宣言を発していますが、ポートランドでは、大勢の若者たちの声が市長を衝き動かしたと聞いています。
Dawn その情報は間違ってはいません。学生らが気候変動に対するストライキを行い、授業をボイコットしました。そしてデモが起こり、この動きを受けてメディアが動きポートランド市長も気候変動の問題に力を入れることにつながりました。もっとも、それ以前からポートランドは気候変動に対して高い意識を持っていました。気候変動に対するストライキやデモが起こる前は、市長はホームレス問題や人種差別問題、加えて犯罪対策などたくさんの問題に取り組まなければならない状況にあり、気候変動への取り組みが後回しにならざるを得ない状態でした。ストライキやデモにより気候変動の問題が前面に出てきたという側面があります。
大坪 学生たちの声はひとつのきっかけで、もともとポートランド市民の意識は高かった。
Dawn そうです。私は、この気候非常事態宣言をつくるにあたり貢献したチームの一員でしたが、特にグリーンインフラについては様々な局と協働しながら私のチームで作成したものです。たくさんの局の人たちとつくりましたので、当初は様々な意見があり、バラバラでまとまりがないものでしたが、とても能力が高いプロジェクトマネジャーの力によりひとつのドキュメントにまとめることができました。それは奇跡と言っても良いかもしれません。今のポートランドの状況を示し、それに対して目指すべき将来像をまるで写真を撮るようにまとめることができました。
こうして苦労の末に完成した宣言ですが、現在どのように実行されているかは来日してしまったため今の状況はわかりません。おそらく困難を抱えていると想像しています。というのも他の問題、つまり人種差別やホームレス問題、犯罪に対する問題などと並行して実行しようとしているからです。
ドラッカーと日本文化
大坪 昨年の7月に、ポートランド市当局は、気候非常事態宣言の「一年後経過報告書」(One-Year Progress Report)を発表しています。10ページほどの本文では、宣言時の11項目の〈コミットメント〉を皮切りに、〈2020-21年の進捗状況(平凡な年ではなかったが、我々は耐え抜いた)〉〈気候正義に関する進捗状況〉〈気候への投資と支出〉〈気候変動対策加速のための次の一手〉〈まとめ〉、以上が簡明にまとめられています。さらには付帯文書として、宣言時の34の決議項目ごとに、主管局・関係部局・責任者名・1年間の経過と次の予測、これらが一覧表にまとめられ、添付されています。この俊敏性や透明性と、機動的に部門横断的な対処を図る体制は、行政府ならずとも、大いに学ぶべきところだと思いました。
報告書を読んで、事業におけるコミットメント(公約・責任ある約束)の重要性を事あるごとに強調したドラッカー(Peter Ferdinand Drucker /経営学者)を、私は思い起こしました。Dawnさんは、しばしばドラッカーの言葉を引用し、また、彼が日本について述べた言葉にインスパイアされたことを、昨年7月のシンポジウムでも述べておられます。もっとも、それは1970年代、日本に勢いがあった時代に書かれたもので、「失われた30年」の停滞に喘ぐ日本での毎日に、違和感を覚えることはありませんでしたか?
Dawn 良い質問ですね。できれば来日早々にお話ししたかったです。ドラッカーは1970年代に書いていますが、私が感銘を受けたのは、その当時の日本のことではなく、数百年前の日本の文化が当時の日本にも残っていることついて言及している部分でした。彼が今から50年前に数百年前の日本について語ったことは、物事を早く進めるのではなくスローダウンし、ありのままの事象をより深く理解する日本人の能力についてでした。マインドフルネスに近い考え方だと思いますが、ある禅僧が絵を描いた際に、「何分かかりましたか」という質問に対して「80年と10分かかりました」と答えたというエピソードは好例です。絵自体は10分で描き上げましたが、そこにはそれまでの80年間の人生経験が活かされているという意味が込められている。物事をより深く認識する能力、それがあるからこそより質の高いものをプロデュースできることをドラッカーは伝えたかったのだと思います。
日本に来た時、その日本人の能力がどのような形で日本に残っているのか感じたいという思いはありましたが、そのことよりも私にとっては環境保全に携わっている行政の人たちは、みんな仲間なのだということの方がもっと大事でした。
それは日本に限らず世界中の環境保全に携わる行政の人たちに対しても同じで、日本でもその仲間と一緒に働きながら感じ、知ることができればと思っていました。実際に日本人は繊細な事象をピックアップして認識する能力に長けていると感じました。特にそれは人間関係において強く思いました。
実は、ポートランドが日本から学ぶという関係性についてはずっと考えてきたことです。日本からポートランドを訪れる環境保全に携わる団体の関係者や代表たちはポートランドから学ぶために来たという人が多く、そういう人にポートランドが日本から学べることについて質問をすると誰も答えることができず、いつも日本がポートランドから学ぶという一方通行でした。私は日本から学べることがあると信じて日本に来ましたが、講演会などの最初に昔の日本についてドラッカーが書いたことを話すと、日本人がいろいろなことを教えてくれるようになりました。
私は世田谷から学ばせていただき、また本を読んだり大学の先生とお会いしたりして得るものがありました。加えて私が実践しているマインドフル・リーダーシップについて考える時間や、日本の状況を見て自分自身を映し出す時間をもらえたと感じています。
大坪 マインドフル・リーダシップという言葉が出てきたところで、日本の読者に向けてご説明していただけますか。できればそこに思い至った経緯も含めてお願いします。
真のリーダーシップとしてのマインドフル・リーダーシップ
Dawn 頑張って説明します。まず大事なことはペースを遅くすることを意識することです。そして自分の身の回りで起こっていることに対する自分の内面の反応について気づくことです。たとえば疲労感があり空腹でストレスが溜まっている状態では、仕事場に悪い影響を与えてしまいます。これから人種差別問題や気候変動問題など難しい問題に立ち向かうにあたって、悪い影響を与えるのではなくより質の高い影響を与えることができる自分として仕事場に行くことが重要です。また自分の意見に反対する意見を言われて怒りが生じたとします。その時に怒りに任せてあなたの言っていることは違うと言ってしまうと、そこで議論は終わってしまいます。マインドフルネスでは共感的に接するという選択をし、反対意見に対して意見をするのではなく目標を達するためにはどうすればいいかを伝えることで議論を促進させます。
マインドフルネスの核となるのは、自分について知ることと自分の反応についてよくわかっていることです。自分について知ることは人生をかけて取り組んでいくことですが、それと同時に他者との関係においてどう対応すればいいのか、どういう環境を構築すればいいのかを考えることが大事です。そして意識的に物事に対すること、つまりそれを自然とのつながりでやるのか人とのつながりでやるのかなど応用することが重要です。
次にリーダーシップについてですが、それは昔からひとつの場所に力が集中しやすいことが特徴です。そのことによって私たちの社会はつくられてきましたが、私の希望、これはすべての人々に当てはまることですが、特に行政の人に当てはまることは、力がひとつの場所に集中しているヒエラルキー構造は複数の人たちに影響を与えるという意味でよくないということです。これからの新しいリーダーシップの定義に照らせば、他の人たちが成長できる場をつくること、それがリーダーとして、私がやるべきことになります。トップダウンで命令するような時はそこまで細かい意識は必要ありませんが、そうではないケースでは自分がすべての答えを持っているわけではないと姿勢を低くし、他の人が成長できる場を提供し、すべての人が力や資質を強みに変えて参画できるようにしなければいけません。そのためにはリーダーとして高い意識が必要になります。またそういう場を提供することで、関わっている人たちがみんなでやっているという共通意識を持ち、自分も貢献している、主体的に参画できているという感覚が得られるのです。
大坪 権威ある外交問題評議会の審査を経て、日立フェローに選ばれたグリーンインフラの専門家であるDawnさんの研究課題が、みどりの気候回復(Green Climate Recovery)と、そのためのマインドフル・リーダーシップ探求であることに、驚いた識者の方々もたくさんいます。ですが、私のように草の根の市民活動をしている者にはよく理解できます。市民活動の現場では、ピラミッド型のリーダーシップは、役に立ちません。共感をベースとしたネットワークの構築こそ大切だし、そのためのスキルを身に着けることは、組織の規模の大小を問わず必要なことですね。
また、組織内のみならず、コミュニティとの対話の中でも、マインドフル・リーダーシップを発揮することは間違いなく役に立つ。多くの移住者を受け入れているポートランドの行政官ならではの着眼だと思いました。
Dawn ひとつ言いますと、ポートランドが移住者に対してウェルカムの姿勢を見せているのは、実は白人の富裕層がたくさん移住してきているからだと言えます。彼らは身近に自然を感じる暮らしができることを望んでいますが同時に、自然に囲まれたサステナブルな街に住んでいるというブランドも欲しいのです。そこから生じた問題のひとつとして、マイノリティの人たち、最初に黒人がポートランドでの暮らしは安全だと感じられないと言い出し、それに追従するようにアジア系やネイティブアメリカンのコミュニティがポートランドのアイデンティティに自分たちが含まれているとは思えないと訴え始めました。ポートランドは気候変動やサステナビリティへの高い意識を持っていますが、それは白人だけのものではなくマイノリティも含めたすべての人たちが共有し取り組むことができるかということが問われていると思います。
大坪 長年閉じられていたパンドラの箱が開かれてしまったのですね。もっとも、マイノリティにとどまらず、世界的な中間層の没落を背景に、白人社会にも分断の暗い影が忍び寄っていることが、事態を一層、深刻かつ複雑なものにしているのだと拝察します。90年代に提起された社会関係資本(Social Capital)の劣化の問題が、ますます先鋭化しています。
私は、このインタビューの掲載誌のちょうど1年前の号に、私の活動の一端を紹介する記事を書かせていただき、それが端緒となって、マイクロ・コモンズというプランをまとめ、世田谷区の担当部署(みどり33推進部)でのプレゼンの際には、Dawnさんにも同席していただきました。まちなかに、市民参加が容易な小さなみどりのコモンを数多く誕生させることが、いずれは都市部のグリーンインフラの再生と創出に資するのではないか。滞日中、Dawnさんが籍を置かれた東京農業大学の福岡孝則先生も、論文(*2)の中で「グリーンインフラは、社会関係資本を強化する」ということを述べておられます。間違いなく、両者には深い相関がある。
社会関係資本の3要素〈信頼・規範・ネットワーク〉の仕組みがあることで、人々は協調し協働できるのだという(ロバート・パットナム)。マインドフル・リーダーシップ同様、世の中を動かしたいと思ったら、まずは心のアプローチや精神風土の醸成が必須であり、それはみどりや環境に関する活動においては、特に重要だと思います。
Dawn そうですね。私は世田谷区尾山台の一般社団法人おやまちプロジェクト(*3)の活動に参加しましたが自分の好きなことをひとりでやるのではなく、みんなで楽しく一緒にやることが大事だと代表理事の高野雄太さんがおっしゃっていたことに共感しました。地域の人みんなが関係を持ち、その上にさらに一緒にやるという関係を築いていくという作業、これはグリーンインフラに限らず様々なところで参考にするべき活動だと思います。
日本庭園が持つパワー
丸茂 先ほど、日本から学ぶべきものはあるというお話をしていただきましたが、日本の造園家はもっと自信を持つべきだと発信した人がいます。弊誌の132号で紹介した造園家の栗栖宝一さんですが、彼はアメリカで作庭活動をしていて薬物依存の若者を更生させるための医療施設や刑務所で、日本庭園をつくりました。そのことにより若者が更生を誓ったり、受刑者が1日も早く社会復帰したいと考えるようになったりと彼らの意識を変えました。それはなぜかというと、日本庭園には誰もが受け入れられる自然のあるべき姿があるからではないかと彼は言っています。そして日本の造園家は自分の何を以って社会に貢献できているかと考えることを忘れてしまっているのではないかと造園家に向けてメッセージを送ってくれました。私は栗栖さんのメッセージこそ日本の造園家やランドスケープアーキテクトに課せられた使命だと考えていますが、Dawnさんはいかがお考えでしょうか。
Dawn 私も栗栖さんのメッセージに同意します。加えて、これは主人とよく話すのですが、日本ではすでに存在している日本庭園に対してその価値が見出されなくなってきているのではないでしょうか。寺社仏閣にある日本庭園が小さくなっているとも言っていましたが、日本庭園の根幹にある思想や哲学、自然のあり方や力、そのような大きなパワーやスピリチャルなものを感じることができるのが日本庭園の良さです。造園やグリーンインフラなどにおいて西洋から学ぶことばかり意識するのではなく、日本庭園の根幹にある思想や哲学にもっと意識を向けるべきだと私は考えています。自然の存在を感じ、ゆっくりと意識し、自然のありがたさを感じて欲しいものです。
日本の仏教の僧侶が言っていた言葉ですが、歴史を見ることと同時に今日ある自分を変えていく意識が大事だと。曰く「内なる変化なくして、外なる変化はありえない。集合的な変化なくして、変化は意味をなさない」。
丸茂 ありがとうございます。まさにいま日本人が考え直さなくてはいけないお話だと思います。クリエティブな仕事にしろ、マネジメントにしろ、日本庭園の根幹にある価値を見直すべきだと感じました。
Dawn 来日から8 ヶ月、いろいろな経験をし、いろいろな人と会い、いろいろなことを考えてきました。それらすべてのことが今回のインタビューを通して自分の中で整理され、落とし込むことができたように感じています。この機会を与えてくれたことに感謝します。
(2022年2月21日・上町まるものがたりにて)
(*1)内山貞文氏。米国に拠点を置き海外で日本庭園を手がけている。92年イリノイ大学卒業。94年ポートランドで日本庭園を手掛ける栗栖インターナショナルへ入社。2008年ポートランド日本庭園ガーデン・キュレーターに就任
(*2)ISSN1346-7328 国総研資料第1036号 平成30年6月国土技術政策総合研究所資料「防災系統緑地の計画手法に関する技術資料-都市の防災性向上に向けた緑の基本計画等の策定に係る解説書-。(4)持続的雨水管理を核としたグリーンインフラ適用策:米国ポートランド市の事例など。東京農業大学地域環境科学部 准教授 福岡孝則
(*3)おやまちプロジェクト世田谷区尾山台地区のまちづくり団体。2017年8月から活動を始め、2019年5月に一般社団法人化。普段出会わないような人々が活動を通して新しく出会いつながることで、このまちでの暮らしが楽しい、このまちが好きだという気持ちが醸成され、その気持ちの集合体がまちをより良い状態にするという考えのもとまちの活性化に取り組んでいる。特徴は個人のこんなことがやりたいという内発的な動機に共感した人たちがプロジェクトを立ち上げ個人のやりたいを形にしていく点である。それは相談や雑談から生まれることも稀ではない。課題を見つけ組織をつくりその解決に取り組むという従来のまちづくりとは一線を画す活動である。活動を通して新しい繋がりが生まれ、住む人の顔が見えるまちになる。
https://oyamachi.org/
2005 Portland Watershed Manegement Plan
資料出典:ポートランド市「Portland Watershed Management Plan」
City of Portland Bureau of Environmental Services 10-YEARS STRATEGIC PLAN 2018-2027
資料出典:ポートランド市「Strategic Plan FINAL」より
Dawn Uchiyama氏がインスピレーションを受けた日本の風景
在日中、日本の各地を訪れたDawn Uchiyama氏。様々な日本の風景に触れたが、特に印象に残る風景をピックアップしていただいた。(写真=Dawn Uchiyama)
【世田谷ポートランド都市文化交流協会より】
Dawn Uchiyama氏が基調講演を行った「ポートランドまちづくりスクール2021特別セミナー ~グリーンコミュニティの実現に向けて~」2022年2月12日収録がYouTubeにて動画配信しています。詳細は、『世田谷ポートランド都市文化交流協会HP』で確認してください。https://psace.jp…